加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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出産に対する麻生大臣の発言から見えてくるもの

 

 麻生財務大臣が、少子高齢化で社会保障費が増えていることについて「高齢者が悪いようなイメージをつくっている人がいっぱいいるが、子どもを産まない方が問題だ」と述べたと報道されています。

 麻生氏は良くも悪くも、様々な発言が話題になる人ですし、この発言は選挙演説中に飛び出してきたものです。話の前後のニュアンスもありますから、問題発言といういうほどのものではないのかもしれません。

 ただ、こうした内容の発言が公的な立場の人から出てくることは、日本ではそれほど珍しいことではありません。つまり「産まない人に責任がある」という考え方は、日本社会の中で一定のコンセンサスを得ていると考えた方がよいでしょう。

モラルで解決するのか仕組みで解決するのか
 社会で何か問題が起こった時、それに対して「モラル」で解決するという考え方と、「仕組み」で解決するという考え方の2種類があります。
 「女性は子どもを産むべきである」というのは、「モラル」で解決しようという典型的なパターンということになります。これに対して、子ども作った人を税制上優遇する、直接間接的に金銭支援する、といったやり方は、仕組みで解決する方法ということになります。

 モラルで解決するというやり方は、多くの場合、うまくいきません。ほとんど全員の考えが一致するモラル(例えば人を殺してはいけないといったようなもの)は、たいていの場合、何らかの法律になっていますが、そうでないモラルの場合には価値観の相違が存在し、強制力を伴わないからです。

 少子化を防ぐためには女性が子どもを産むべきであるという考え方に賛同する人もいますが、一方では賛同しない人が存在し、しかも、子どもを作らない方が経済的メリットが大きいというのが社会の現実です。
 そうなってくると、いくら、一部の人がモラルを叫んでも、それを実践する人は限られ、結果的に子どもの数は増えないということなってしまいます。

 少子化によるマイナスの影響が大きく、これを本気で防ごうと思うのであれば、モラルに訴えるやり方はむしろ逆効果ということになります。

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子どもが多い家庭に2000万円をプレゼントできるか?
 ただ、出産に対してモラルを叫んでいる人も含めて、本当に、日本人が少子化対策について重要課題と考えているのかについては少々疑問なところがあります。
 少子化については、多くの人がそれを問題だと思ってはいるのですが、本格的に改善しようという意思もあまり感じられないからです。

 賃金や消費税など、生活に直結する政策については高い関心が寄せられますが、少子化対策については、やはり後回しというのがホンネではないでしょうか。

 少子化対策では、出生率を2まで引き上げたフランスが引き合いに出されますが(日本は1.4)、フランスでは子どもが何人もいる家庭に対して、直接・間接含め、成人するまでに2000万円程度の支援が提供されるといわれています。本気で少子化対策を考えるのであれば、このくらいの支援をしなければ、子どもの数を増やすことはできないのが現実なのです。

 少子化対策を女性のモラルの問題だと認識している人はもちろんのこと、仕組みとして解決策が必要だと考えている人も、子どもがいる家庭に何千万円の支援を行うと聞くと躊躇する人が出てくるかもしれません。

 人口が減っても経済成長を維持することは可能ですが、そのためには人口を増やすことよりも、もっと厳しい解決策が要求されることになります。
 日本人の多くは、現状の雇用環境の維持を求める可能性が高く、この選択は不可能と考えられます。結果として、人口維持は、今後の成長にとって効果的な対策のひとつということになるわけですが、そのためには、多額の財源が必要となります。

 わたしたちは、本腰を入れて少子化対策に取り組むつもりがあるのか、真剣に議論した方がよさそうです。

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