経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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公的年金の運用方針転換で、巨額の資金が株式市場に

 先週は日銀による突然の追加緩和というサプライズがありました。追加緩和がインパクトのある話題だったのであまり目立っていないのですが、国民にとって重要な発表がもうひとつありました。それは公的年金による株式の購入です。

追加緩和とセットになった運用方針の変更
 これまで日本の公的年金は、安全第一ということで日本国債を中心に運用を行ってきました。しかし、今後はインフレが懸念されることから、国債中心の運用に対して疑問視する声が上がっており、昨年から運用方針の見直しについて議論が進められてきました。

 特に安倍政権は、年金の運用改革にかなり積極的で、今回の内閣改造で厚生労働大臣に就任した塩崎恭久氏は、個人的に安倍首相に近いこともあり、ことのほか、運用改革に熱心といわれます。

 ただ年金の運用方針変更は、リスクを伴うものであり、命の次に大事な国民の資産である年金を株式というリスク資産に振り分けていいのかという声があるのも事実です。
 また、実際に株式シフトということになると、短期的には株式市場の上昇要因となりますので、株価対策など政治利用されやすいという点も指摘されていました。

 運用方針の変更をめぐっては様々な駆け引きがあったようですが、結局のところ、当初の予定通り、株式シフトを進めるという方針が発表されることになったわけです。

 この方針転換がいいことなのか、悪いことなのかはともかく、短期的には株式市場に大量の資金が流れ込むことになります。日銀による追加緩和でさらなる円安も予想されますから、少なくとも名目上の株価には上昇余地がありそうです。

 新しい方針では、従来60%を占めていた国債を35%に、逆に12%だった株式を25%まで増やします。これは基本ポートフォリオの数値であって、実際にはすでに株式へのシフトは進んでいます。今年6月末時点で、国債は54%、株式は17%になっています。

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年金の国債はすべて日銀へ
 現在、公的年金は130兆円の資金を運用しています。国債が54%から35%に減るということになると、約25兆円の国債が売られることになります。一方、株式は17%から25%に増えますから、逆に10兆円分、株式が買われることになります。

 10兆円の買いというのは、大変な金額ですから、株式市場がこれによって上昇すると考える投資家が増えても不思議ではありません。一方で、国債は25兆円も売られるのですが、国債の市場は大丈夫なのでしょうか?

 今のところ(あくまで今のところですが)心配はありません。日銀が追加緩和で毎年10兆~20兆円分の長期国債を買い入れることを決定しましたから、年金の売りは日銀が吸収してくれる計算になります(これは今後、大きな問題を引き越す可能性がありますが・・・)。

 日銀の追加緩和で円安がさらに進み、公的年金の方針転換で株が買われるのですから、相場にはプラスの材料です。

 ただ、一方的に上昇するのかというと、そうともいえません。このところ足元の景気の悪化が顕著になっているため、消費が伸びていないのです。

 ただ総合的に考えれば、やはりプラスの材料が多いと考えた方が自然でしょう。トヨタなど、海外で多くの製品を販売する製造業は、円安によって日本円ベースでの売上げと利益が伸びることになります。消費の低迷がすべての業種に影響を与えるわけではないからです。

 株式市場は、追加緩和と公的年金の買いによって、当面、堅調に推移する可能性が高いと考えられます。ただ、あくまでこれは「当面」の話です。今回の追加緩和と公的年金の運用方針転換は、思わぬ弊害をもたらす可能性があります。長期的にはまた別の視点が必要かもしれません。

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