加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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旧帝国大学と早慶以外は職業訓練校にという提言が出てくる背景は?

 

 大学教育のあり方について議論している文部科学省の委員会で、非常に刺激的な提案が出され、ちょっとした衝撃が走っています。簡単に言ってしまうと、旧帝国大学と早慶以外の大学は、職業訓練学校にすべきという内容です。

大学を職業訓練学校にという提言の背景にあるもの
 提案したのは、経営競争基盤CEOの冨山和彦氏です。冨山氏は経営コンサルタントで、政府主導で設立された企業再生ファンド企業・産業再生機構のCOOを務めた人物として有名です。
 もともと冨山氏は、歯に衣着せぬ発言で有名な人なのですが、アカデミズムからの参加者が多い、文科省の審議会でこのような大胆な提案を行ったことから、衝撃が走ったというわけです。

 冨山氏は、旧帝国大学と早慶以外を別枠にすべき明言しているわけではありません。ただ文部科学省が進めるスーパーグローバル大学計画のトップ大学のカテゴリーに入っているのは、旧帝国大学と有名私立大学ばかりですから、カリキュラムの分離が行われるとすると、そのような区分となる可能性は高いでしょう。

 こうした大学改革の是非については、多くの人が様々な見解を持っていると思いますが、筆者はむしろ別の観点から、この提案はインパクトがあると感じています。それは、日本の経済と産業について、同氏が、かなり本質を突いた指摘を行っているからです。

 提案では、日本は、グローバルに戦うごく一部の人材と地域密着型の仕事に従事する多数の人材に二極分化しているとし、前者をグローバル型(G型)、後者をローカル型(L型)と定義しています。

 現在、低い水準にとどまっているL型の労働生産性を上げないと、経済全体の底上げや賃金上昇は難しいと冨山氏は主張しているわけです。これを実現するため、一部の大学を除き、カリキュラムを職業訓練的なものに切り替えるべきというのが結論です。

 冨山氏のこうした分析は、おそらく、一種の諦観から来ています。

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もう一度、本当にそれでいいのか国民的な議論が必要
 日本はあらためて説明するまでもなく、先進工業国として発展してきました。これはかつての英国や米国とまったく同じです。しかし歴史の必然として、こうした工業国は、途上国に必ずキャッチアップされてしまいます。英国は米国に、米国は日本に追い付かれ、日本は今度は韓国や中国に追い付かれているわけです。

 英国や米国は、付加価値の低い製造業は捨て、より高付加価値な産業にシフトすることで、現在でも高い国力を維持しているわけです。同じ流れで考えるなら、日本も従来型の製造業は捨て、高付加価値な知識産業型の製造業に移行するのが正しい道ということになります。

 ところが英国や米国とは異なり、日本人はこうした選択をしませんでした。高付加価値な知識産業への移行は、企業の大胆なリストラ、外国人頭脳や外国資本の受け入れなど、痛みを伴う改革が必要となるからです。

 英国のシティと呼ばれる金融街で働く人の半分は外国人ですし、米国のシリコンバレーは、もはや米国人の街ではありません。しかしこうした改革を進めることで、高い付加価値と豊かさを維持しているわけです。

 日本はこうした方向を選択しませんでしたから、基本的に昭和の時代と同じようなビジネスモデルを続けています。当然、安価な労働力をバックにした韓国や中国とコスト競争をすれば負けてしまいますから、日本の製造業は全体的に苦しい立場に置かれてしまったわけです。

 日本の製造業は、現在のビジネスモデルを続けている限りは、一部の企業を除いて、従来のような高収益を確保することは難しくなってくるでしょう。すでに工場も海外に移転していますから、従来型の製造業では、もはや国内の雇用を支えることができなくなっているわけです。

 そうなってくると、日本のGDPを支えるのは、小売り、流通、建設、介護といった、あまり付加価値の高くないサービス業ということになります。この部分が大多数を占めるようになりますから、ここの生産性を上げないと、GDPの成長は難しいというのが、冨山氏の指摘です。

 これを実現するために、一流大学以外の大学では、高度でアカデミックなことを教えるのではなく、会計ソフトの使い方や工作機器の動かし方など、職業訓練を行うべきという流れになっています。

 具体的にどの大学をどう変えるのはともかくとして、冨山氏の指摘は核心を突いています。つまり日本はすでに、低付加価値型であまり稼ぐことができない国へと舵を切ってしまったのです。そうなってしまっている以上、大学の職業訓練学校化は避けて通れない課題というわけです。

 個人的には筆者は本当にそれでよいのかという疑問を持っています。もう遅いかもしれませんが、まだ、ギリギリで間に合うタイミングです。本当に豊かさを犠牲にしてでも、産業構造の変化を望まないのか、日本人はもう一度、自問自答した方がよいのではないでしょうか?

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