経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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エボラ出血熱、被害の実態とナイジェリアで感染拡大を防げた理由

 西アフリカを中心に猛威を振るっているエボラ出血熱ですが、先進国での2次感染が警戒されています。今のところ先進国で感染が拡大する兆候はありませんが、もし感染が拡大した場合には、大きな影響が出ることが懸念されています。

西アフリカでの被害の実態はどの程度なのか?
 エボラ出血熱は、エボラウイルスによる感染症です。このウイルスに感染すると、最大21日程度の潜伏期間の後、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、咽頭痛等の症状が出てきます。さらに、嘔吐、下痢、出血(吐血、下血)などの症状が現れ、最悪の場合、死に至ります。
 
 今年3月に西アフリカのギニアで感染が確認され、その後、リベリア、シエラレオネなどに感染が拡大していきました。現在では1万人近くが感染し、うち約半数が死亡しています。感染拡大は止まっておらず、WHO(世界保健機関)では感染爆発の危険があると警告しています。

 世界銀行では、西アフリカ地域におけるエボラ出血熱による被害額は38億ドル(約4000億円)から最大で326億ドル(約3兆5000億円)にのぼるとしています。この数字だけでは、実態がつかみにくいので、もう少し具体的に考えてみたいと思います。

 感染が拡大している西アフリカのGDPは7400億ドル(約79兆円)程度です。日本が500兆円の経済規模を持っていることを考えると非常に小さい数字です。被害額は最大で326億ドルですから、最悪の場合、GDPの4.4%の金額に達することになります。

 ちなみに、東日本大震災の被害総額は約17兆円だったのですが、これは日本のGDPの3.6%に相当します。単純比較はできませんが、西アフリカ地域では、すでに東日本大震災を超えるレベルの被害となっていることになります。

 単なる報道を見ているだけでは、どの程度の状況なのかピンときませんが、このように数字を使って考えると、現地はかなり深刻な状況であることが分かります。

 ウイルス感染が猛威を振るい、各国に大きな被害が出たケースとしては、2002年に中国で大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)があります。
 アジア開発銀行によると、SARSによって中国本土では180億ドル、香港では120億ドルの被害が出たそうです。当時の中国のGDPは1兆6500億ドルですから、こちらはGDPの約1%ということになります。

 先進国で2次感染が拡大した場合、その程度にもよりますが、SARSと同じかそれ以上の被害が出てくる可能性があります。今後の2次感染の動向には注意が必要でしょう。

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感染拡大を防いだナイジェリア
 西アフリカは衛生状態が悪く、これが感染拡大に拍車をかけているといわれていますが、そのような中で、感染拡大を防げた国もあります。それはナイジェリアです。

 WHO(世界保健機構)によると、ナイジェリアでは2カ所で感染が広がったものの、最長潜伏期間の2倍に当たる42日間が過ぎても新規感染者が出なかったため、感染が収束した可能性が高いとしています。

 ナイジェリアは人口密度が高く、しかも衛生状態が悪いため感染爆発が懸念されていました。しかし同国では、国内の患者全員について感染経路をたどることに成功し、最初の感染源が、リベリアから入国してウイルスを持ち込んだ男性であることを突き止めました。

 当初、病院側は男性と押し問答になったそうですが男性の外出を許可せず、これが感染拡大を防ぐうえで大いに役立ったということです。やはり感染の可能性がある人をしっかりモニターできれば、かなりの確率で感染を抑えることができそうです。

 ナイジェリアは先進国ではありませんので、かなり強権的な手段が用いられたともいわれています。米国や日本などにおいてまったく同じ措置を取ることは難しいかもしれません。しかし、劣悪な環境のナイジェリアで感染を防げた事実は大きいと思います。可能な範囲で、患者のモニターを徹底することで、かなりの効果が得られそうです。

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