加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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小渕経産大臣辞任から垣間見える、日本社会における「お金」の役割

 

 小渕経済産業大臣が10月20日、自身の政治団体の収支が食い違っている問題の責任を取って大臣を辞任しました。
 筆者は以前、小渕氏は今後の政局のキーパーソンになると本サイトで書きましたが、予想とは少し違う形で大きな話題を提供することになってしまいました。それはともかく、小渕氏は、安倍改造内閣の目玉のひとつだっただけに、今後の政局に大きな影響を与えそうです。

 ここでは、政局の動向や、小渕氏の収支報告の是非については論じませんが、今回の一件で、政治家と票とお金の関係が密接であることをあらためて感じた人が多いのではないかと思います。今回は、小渕氏の収支報告問題という観点から、日本社会におけるお金の役割というものについて考えてみたいと思います。

政治家はお金儲けをしているのか?
 小渕氏の父親は言わずと知れた元首相の小渕恵三氏です。小渕氏の地元の群馬県は、特に有権者と政治家の関係が密な地域として有名です。中選挙区時代には、小渕恵三氏、福田赳夫氏、中曽根康弘氏という首相経験者の大物政治家が激しく票を争っていました。

 今回、問題になったのは、小渕氏の政治団体が開催した「観劇会」の収支です。小渕氏は、毎年、東京の明治座を貸し切り、支援者らと観劇会を開催しているのですが、大物の演歌歌手などが出演する、たいそう華やかなものだそうです。
 2010年と2011年の収支報告書に観劇会の開催費用を記載しているのですが、支援者から徴収した会費として記載した金額の方が少なくなっており、収支が合わないことが指摘されてました。

 その収支のズレについてはここでは論じませんが、地元の支援者が集まり、バスで東京に向かって、明治座で観劇するという、昭和な雰囲気たっぷりのイベントが開催されていたことに驚いた人も多いでしょう。

 マスメディアなどでは、政治家はお金儲けばかりしているといった批判がよく展開されていますが、私たちが一般に考えているようなお金儲けの世界と、政治家のお金に対する感覚は少し違います。このあたりを区別できるようになると、世の中のお金の仕組みが、さらにはっきりと見えてくるかもしれません。

 世の中でお金持ちと称されている人には、実は2種類があります。ひとつは本当に資産を蓄積していてお金を持っている人です。もうひとつは、お金を持っているのではなく、お金を大きく動かせる人です。両者は似ているようで実はまったく違います。

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政治家はお金を動かせる人
 お金を持っている人は、事業や投資など、お金を生み出す手段を持っていて、そこから高い収入を得ています。お金の流れは収入源から本人の預金口座という一方向のみとなっています。

 これに対してお金を大きく動かせる人は様子がかなり異なります。政治家や企業の経営者といった種類の人たちは、自分ではそれほどお金を持っていなくても、組織が持つ巨額のお金を動かすことができます。ある品物や工事を発注するときなど、どの企業に仕事を回すのかについて影響力を行使できるわけです。

 そうなってくると、その人にお願いすれば、比較的条件のよい仕事にありつけますから、周囲にはいろいろな人が集まってくることになります。人が集まってくると、いろいろな相談事やトラブルも出てきますし、それについては誰かを紹介して解決してあげることも可能となります。

 このようにして無数の貸し借りができることで、ひとつのコミュニティが形成され、そこでは結構な金額のお金が動くようになります。
 しかし誰か一人が集中してお金儲けをしているわけではなく、あくまでお金は、その中をグルグルと回っているだけです。そうしたお金の循環に中心にいる人物がリーダーとみなされ、多くの場合、それは政治家という職業に就いているわけです。

 小渕氏がそのような活動を積極的にしていると指摘したいわけではありませんが、多かれ少なかれ、政治家というのは、こうしたコミュニティを地元の選挙区で展開しています。小渕氏が主宰した観劇会もこうした流れの中で、昔から行われていたものと考えるのが自然でしょう。

 政治とお金の問題が以前から指摘されていますが、その解決が難しいのは、単純に誰かが独占的にお金儲けをしているという図式でないからです。小さいところでは冠婚葬祭などの行事や地域のお祭り、大きいところでは公共事業や補助金などを通じて、様々な形でお金が動き、その中で皆が少しずつ、何らかの形で利益を得ているという状況なのです。

 これはよく言えば日本型の共同体社会ですし、悪く言えば、利益誘導型政治ということになるわけです。新卒一括採用で中途での出入りが少なく、元請け下請けという関係がガッチリ構築されている一部のサラリーマン社会も、実はこうした共同体社会の変形版と考えることができます。利益誘導型政治に批判的な人も、経済面ではこうしたコミュニティに依存しているというケースはよくあることなのです。

 お金について影響力を持っている人を見たら、その人はお金を持っている人なのか、お金を動かせる人なのかについて、分析してみてください。いろいろなことが見えてくるはずです。

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