実質金利と名目金利の違い

加谷珪一の金利教室 第16回

 これまで、金利の動きは経済成長率や景気循環と密接に関係しているという話をしてきました。金利の動きから経済の動きを読み取る場合には、名目金利と実質金利の違いについても、理解しておく必要があります。

実質金利は名目金利から物価上昇率を差し引いたもの

 例えば金利が2%から4%に上昇しても、物価も同じ割合だけ上昇していれば実質的には何も変わりません。一方、同じように2%から4%に金利が上昇したにもかかわらず、物価が1%の上昇にとどまった場合、実質的な金利の上昇分は1%ということになります。

 現実の経済は名目上の金利だけでなく、物価を考慮に入れた金利の影響を受けることも少なくありません。物価の動きを考慮に入れた金利を「実質金利」、物価を考慮に入れないそのままの金利を「名目金利」と呼びます。実質金利は名目金利からインフレ率を差し引いて計算されます。

 多くの人は、明示的には意識していないかもしれませんが、名目金利よりも実質金利によって経済的行動を決めている可能性が高いのです。したがって、量的緩和策などの金融政策の是非について議論する際には、実質金利を念頭に置くことが重要となります。

 日本では過去25年間、デフレが続き、景気が低迷するという状況が続いてきました。1990年の長期金利は6%台と高い水準でしたが、これはバブル経済の余韻がまだ残っており、不景気は長期化しないと期待する人が多かったからです。

 ところが、その後、金利は低下が続き、1995年には3%に、2000年には1.7%まで低下しました。本来であれば、金利が低下すれば、企業は銀行からお金を借りやすくなり、設備投資が拡大するはずです。しかし、経済の見通しがあまりにも暗いと、企業はいくら金利が安くても、リスクを取って設備投資を行うことには慎重になってしまいます。

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量的緩和策は実質金利を引き下げる政策

 2006年から2007年にかけては、米国で不動産バブルが過熱し、円安が進んだこともあって日本の輸出企業の業績が大きく伸びました。
 
 この時期には、設備投資に前向きな企業が増え、金利も底を打つのではないかとの期待がありましたが、これもリーマンンショックによって消え去ってしまいます。結局、金利はさらに低下することになり、量的緩和差策がスタートする前年の2012年には0.8%と1%を切るまでになりました。

 このような状況になると、金利を下げて景気を刺激するというメカニズムが働かなくなってしまいます。経済学の世界では、金利が低くなりすぎると金融政策が効きにくくなるというテーマがよく議論されるのですが、当時の日本はまさにそのような状況だったわけです(今もあまり状況は変わっていませんが)。

 これ以上、金利が下げられない環境下で、さらに金利を下げたことと同じ効果を得るためには、物価を上げて、実質金利を人為的に引き下げればよいという結論になります。これが量的緩和策の基本的な考え方です。

 日銀が国債を大量購入し、市中にお金を供給すれば、市場でインフレ期待が発生します。実質金利は名目金利から物価上昇率を引いたものですから、物価上昇率が上がれば、実質金利は低下することになります。

 量的緩和策の効果について議論する場合には、実質金利の低下がどれほど設備投資を促したのかという定量的な視点が重要です。

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